新型コロナウイルス感染症が拡大したことによって、飲食店はさまざまなアイデアと方法でこの事態を乗り切ろうとしています。そのなかでも、興味深い取り組みを行った飲食店を見つけました。東京・渋谷区は円山町にある焼肉屋「黒田」さんです。
仙台牛などの厳選した黒毛和種をリーズナブルな値段で提供する焼肉屋で、オープンしたのは2019年7月と比較的最近。「ねぎが主役?」と思えるほどたっぷりねぎをのせて食べるねぎタン塩や、分厚く柔らかいハラミなどが評判なんだとか。
実は「黒田」さん、外出自粛が叫ばれていた緊急事態宣言下のゴールデンウィーク中に、なんと、「希望者に無料で焼肉弁当を届ける」という試みに踏み切ったのでした。なぜ無料で? 店長の加納(かのう)さんにお話を聞きました(※取材はリモートで行いました)。
▲店長の加納さん
5日間で500個の焼肉弁当を無料でお届け
──焼肉弁当を無料で配ったと伺いました。どれくらいの期間で、何個配ったんですか?
加納さん:1日限定100個で、ゴールデンウィークの5日間、毎日配りました。Instagram経由で前日の5月1日に告知したんです。欲しい方はDMをください、と。
加納さん:フォロワーが多いわけでもなかったので、当初はそんなに応募も来ないだろうと思っていたんです。ゴールデンウィーク初日、応募の多くは友達や近い知り合いからでした。数も100個にギリギリ届くくらいで。でも2日目には、食べてくださった方や知り合いが広めてくれて、一気にバーっと埋まっちゃって……。用意した分がすぐに埋まってしまいました。
──応募してきたのに配れなかった方もいるんですか?
加納さん:そうなんです。100人以上は……。
──100人以上!
加納さん:予想外でした。SNSは勉強してはいるけど得意ではなかったので、正直、応募は近隣の方くらいだろうなと思っていたんです。びっくりしましたね……。
──お弁当の内容はどんなものですか?
加納さん:ハラミ弁当です。
──これが無料で……。無料配布の背景を知りたいんですが、まず、自粛期間のお店の状況はどのようなものでしたか?
加納さん:3月後半の東京都からの自粛要請を受けて、4月と5月は営業をストップしていたんです。当然、売り上げはゼロ。家賃、広告費、人件費、リース料などの固定費で月に数百万円の赤字で、特に渋谷ということもあって家賃が高くて厳しい状況でした。もちろん経理の方が雇用調整助成金の申請を行ってくれたり、融資を受けたりはしているんですが、目の前の資金繰りが本当に厳しくて……。
──そうですよね……。
加納さん:でも、厳しい状況なのは自分のお店だけではないですよね。どの業種の方々も本当にご苦労なさっていると思います。そういうなかで、ただただ落ち込んでいるだけでは何も進まないじゃないですか。今回のような厳しい状況の時に、自分のことだけで頭がいっぱいになってしまう気持ちはすごくよくわかります。僕も先が見えないことが本当に不安で不安で、眠れませんでした。
──……。
加納さん:「深刻になるな、真剣になれ」という言葉がありますが、まさにそれで、真剣に僕たちにできることを考えたんです。今僕たちにできることは何か? それは「うまい焼肉を提供する」ことだけでした。それ以外何もできません。だから、みんなが大変な今、おいしい焼肉を食べてもらって元気を注入できれば、前向きになってもらえれば……。少しでも笑顔に前向きになれる人が増えれば、きっと良い循環が生まれて明るい未来になると信じたんです。
──でも、無料で配るのはリスクが高いですよね。
加納さん:もちろん、仕入れにはお金がかかっているのでリスクはありましたが、何もしないで自粛期間を過ごすことへの不安も大きかったんです。
──何もやらないことの方がリスクが大きいと感じたんですね。
加納さん:そうです。このまま埋もれて終わってしまうのも嫌でしたし、これをきっかけに知ってもらえたらという気持ちもありました。でもいちばん大きな理由はみなさんを元気にしたかったからです。
1日の移動距離200キロ以上! 元運転手の焼肉店店長
──加納さんご自身で配りに行ったと聞きましたが、外に出ることは加納さんにとってリスキーだったのではないですか。
加納さん:車移動がメインだったので、そこまでリスクは感じませんでした。もちろん除菌やマスクの着用はしっかり行って、ご希望があればドアノブにかける形で配達をしました。むしろ気になったのは、通常お店で提供している焼肉をお弁当にしているので、「おいしく食べていただけるか」ということです。お店で焼きたてで食べていただく分にはおいしさに自信がありますが、やはり配達だとお届けまでに少し時間がかかってしまうので……。でも、今の仕事をやる前は運転手を長く続けていたので、普通の人よりは素早く配達できたと思います。
──運転手というのは、タクシー運転手ですか?
加納さん:いえ、すごく有名で多忙な方の専属運転手をやらせていただいていました。その時のボスに連れて行っていただいた焼肉店が本当においしくて……それがきっかけで自分でも焼肉屋をやりたいと思うようになったんです。
──へえ! それはそれで改めて話を聞きたくなるような面白い経歴ですね。
加納さん:ひょんなところで前職のスキルが活かされました(笑)。
──お弁当のお届け先は、渋谷近辺が多かったですか?
加納さん:元々「黒田」を知ってくれていて「黒田」の焼肉が食べたいという方は、渋谷区や世田谷区、港区などが多かったです。でもその他の地域も多かったんですよ。こんなにたくさん応募が来ると思っていなかったから、最初に「どこでもお届けします」って言ってしまって。遠いところだと、茨城や小田原まで届けに行きました。
加納さん:保温バッグで持って行ったんですが、チンして食べることを推奨させていただきました(笑)。あとは、名古屋や沖縄からも応募がありました。
──沖縄は……さすがに無理ですよね?
加納さん:本当に申し訳なかったんですけど、空輸はできなかったですね(笑)。
──茨城や小田原への配達が入っていると、その日のスケジュールがかなり乱れますよね?
加納さん:乱れますね。遠方は一発目か一番最後に行かないと大変なことになるんで……。帰りが夜遅くなったり、朝が早くなったりということはありました。午前の部と午後の部に分けて届けたんですけど、遠くに行く時はそこを朝一発目に入れるようにしていました。
──仕込みは前日ですか?
加納さん:いえ、当日です。朝イチで仕込んで、遅くとも10時には配達に出る、というスケジュールです。やはり前日にカットするよりも直前にカットした方がおいしいので、毎朝100食分カットしました。おかげで腕の筋肉がついた気がします(笑)。
──ということは、何時に起きていたんですか?
加納さん:だいたい7時くらいですね。朝イチで遠方に配達する日は6時とか、前日からお店に泊まった日もありました。
──ゴールデンウィークの5日間、めちゃくちゃ忙しかったでしょうね……。
加納さん:めちゃめちゃ忙しくて想像以上でした(笑)。本当に100個配ることになると思ってなかったんで……。配達の割合としては午前6割、午後4割です。お昼に食べたい方が多かったんですね。配る場所が良い感じにハマれば3~4時間で配り終えられるんですけど、ハマらない時は大変で、とにかく午前の部が戦いでした。
──どんな方に配ったんですか?
加納さん:それこそ10代の方からご年配の方まで幅広かったです。ご家族のために応募してくれた方もいらっしゃいました。配達後、お弁当をお届けした方のInstagram投稿を拝見したんですが、泣きながら「おいしい」と言ってくれたおばあちゃんがいたんですよ……。そのご家族の方からは「本当にありがとうございました。コロナが終わったら家族みんなで食べに行きます」とお礼のDMもいただきまして、本当にこの活動をやって良かったと思いました。
他にも、配達した際にお手紙や差し入れをたくさんいただいてしまって……。こんなにも喜んでもらえるのかと。元気を注入するつもりが、むしろこちらが元気をもらう形になってしまいました。
▲お客さまからの差し入れの数々
──もしかして、誰かと話したくて応募した方もいたり……?
加納さん:そういう方もいました。もちろん、今も当時も接触に関してはナイーブな時期だったし、できるだけ間合いを取ってお話させていただいたんですけど、「人と会ったのは本当に久しぶり」という方もいましたね。隔離されたような状態で過ごしている方もたくさんいたと思うんです。いろいろ聞かれたり、数分立ち話したりすることも結構ありました。
「外食店と飲食店の違い」
──6月に入り営業を再開されていますが、お弁当を受け取った方はその後来店しましたか?
加納さん:まだこういう時期なので少ないですけど、何組かは来てくださいました。「覚えてますか?」「あ、あの時の!」というやり取りがすでにいくつかあります。
──では、今回の試みに関して、加納さんとしてはかなり手応えを感じていると。
加納さん:宣伝として成功だったかどうかわかりませんが、いちばんの目的は「元気になってほしい」だったので、少なくない数の方々が元気になってくれたのであれば成功だったかなと思っています。
──この試みを経て、仕事に対する考え方は変わりましたか?
加納さん:まず単純に、SNSの広がりの凄さを感じました。それから、「外食店と飲食店の違い」をより意識するようになりました。
──「外食店と飲食店の違い」?
加納さん:ファストフード店や大手チェーン店のように、システマチックに料理を提供しているお店は安価で安定した料理が食べられますよね。これは「外食店」で、弁当化もしやすいです。一方、「黒田」のようなお店は「飲食店」。その日その日のおすすめがあり、空間やスタッフとの会話を含めて楽しんでいただくものだと思っています。出会いや思い出が残りやすいのも「飲食店」。だからこそ、一人ひとりのお客さまにちゃんと向き合い、より丁寧にやっていかなければいけないと強く思いました。
──なるほど。まだまだ厳しい日々が続きますが、ウィズコロナにはどのように対応していくのでしょうか。
加納さん:正直、ウィズコロナはすごく難しいです。「飲食店」は弁当化も難しく、やっても薄利。店内では対面では座っていけなかったり、左右にパネルを置いたり、席の間隔をあけたりなど指針がありますが、この状態が長く続くのは、とてもじゃないけど現実的ではありません。
それでも僕は「飲食店」が好きなので、なんとかして続けていきたいと思っています。固定費を削り、使用しない時間帯の席の貸し出し、お客さまが集中しやすい19時頃を避けた時間帯にお得なメニューや特典をつけてご来店いただく時間を分散する、などいろいろ考えています。
僕たちのように小さな飲食店は経済的には弱いですが、小さな飲食店だからこそユニークで温かいお店になれると思っています。そういった貴重な飲食店を無くしてはいけないので、自分のお店だけでなく全国の飲食店全体が存続していけるように、また盛り上がっていけるように、これからも様々な活動を行っていければと考えています。
焼肉「黒田」に行きたくなったら……
加納さんが店長を務めるお店「黒田」は、東京・渋谷の円山町エリアにある焼肉屋。上質な黒毛和牛がカジュアルな値段で楽しめます。
自粛・巣篭もりで自炊の機会が増えていますが、食べられるものはやっぱり限られてきます。「焼肉屋のおいしい焼肉が食べたい!」と一度でも思った人はかなり多いでしょう。また、新型コロナウイルス感染拡大という状況によって社会的に不安が広がり、気持ちがふさぎがちだった人も多いはず。こういう時いちばん嬉しいのは、やっぱりおいしいものだったりします。焼肉弁当を食べて泣いてしまったおばあさんの話は、そのことをはっきり表していると思いました。
まだまだ予断を許さない状況ですが、こうした「飲食店」が残っていけますように──。
それでは最後に、「黒田」さんの焼肉をご覧ください。
焼肉食いでエエエエエエエーーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!
お店情報
焼肉 黒田
住所:東京都渋谷区円山町1-16 しぶまる館1F・2F
電話番号:050-5366-3260
営業時間:月~金: 11:00~15:00、17:00~翌1:00 (料理L.O. 翌0:00 ドリンクL.O. 翌0:30)
土、日、祝日、祝前日: 17:00~翌1:00 (料理L.O. 翌0:00 ドリンクL.O. 翌0:30)
平日ランチ時間:11:00~15:00 ※只今ディナータイムは22:00閉店の短縮営業をしております。
休日:なし
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July 10, 2020 at 05:00AM
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