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社長が“VR出社”、社員からは「タメ語」 コロナ禍でも、コミュニケーションがうまくいく会社の秘訣 - ITmedia

 新型コロナウイルスとの共生が当たり前になりつつある昨今、リモートワークやワーケーションの普及・推進と、働き方も様変わりしてきた。そのような状況下でさらにその先をゆく先進的な働き方を実践する企業がある。VR法人HIKKY(ヒッキー)は“VR出社”を実践している。その名が示す通り、仮想のオフィスに分身キャラの自分(アバター)を出社させ、業務を執り行う。

photo VR法人HIKKYでは、社員が仮想のオフィスに“VR出社”している=画像はHIKKY提供

 HIKKYは「VR法人」と名乗っていることからも想像がつくように、仮想空間内でのイベント開催を主なビジネスにしている。おおむね半年ごとに、「バーチャルマーケット」という仮想イベントを主催。2020年12月19日からは年をまたいで約3週間、「バーチャルマーケット5」を開催する予定だ。

 代表取締役社長の舟越靖氏が「VRの中に経済圏を構築するのが目的」と語るように「VR法人」という名称には、VRの専門集団としての決意を込めているそうだ。そんな企業だけに、コロナ禍でのリモートワークも、社員がVR空間のオフィスに出社して業務をこなすのは当然の流れといえよう。

社長に「タメ語」、フラットな会話ができる?

photo HIKKYの舟越靖社長

 しかしVRになじみのない人からすると、アバターである必要があるのか、と疑問に思う向きもあるのではないか。これについて、舟越氏は「大いにある」と断じた上で、VR空間では、リアルでは起こり得ないような考え方が形成されると力説する。コミュニケーションで、相手の外見がもたらす認知バイアスを取り払う効果が期待できるそうだ。

 例えば、年配の社員が後輩から業務上で何らかの指摘を受けると、人によっては「コイツ、生意気だ」という感情が芽生える場合もあるのではないか。真に後輩の物言いに問題があるのであれば、それも致しかたないのかもしれないが、単に「後輩から指摘された」という感情に突き動かされて、指摘内容を顧みないようなことになると、業務上の判断を誤ることにもなり、何らかの損失につながる可能性もある。

 舟越氏によると、アバターによる業務上のコミュニケーションは、そのような認知バイアスの壁を薄くする効果が期待できるというのだ。舟越氏は本人をモデルにしたアバターのほか、美少女キャラのアバターを使ったこともあるそうだが、そうすると「社員は皆、社長の私に“タメ語”で話しかけてくる」と苦笑する。それだけ先入観を取り払ったフラットなコミュニケーションが可能になるということだろう。

photo アバターを使って変身した舟越氏=画像はHIKKY提供

 もっといえば、日本のビジネスシーンで問題になりがちな、性差別的価値観を払拭(ふっしょく)してジェンダーフリーな働き方環境を構築することも可能になるのではないか。

 同社にはVR出社の先駆け的な存在がいる。取締役CVO(Chief Virtual Officer)の役職でバーチャルマーケットの企画や運営を担当している「動く城のフィオ」氏だ。リアル出社は、1年に1回あるかないかという状況で、筋金入りの仮想空間の中の人だ。

 動く城のフィオ氏は、「リアルでは妻子持ちのおじさん。『私の夢は、仮想空間の中で生きること』と聞かされ、ちょうどHIKKYを立ち上げた時に声をかけて参画してもらった」(船越氏)という。

photo HIKKYの取締役CVO(Chief Virtual Officer)を務める「動く城のフィオ」氏=画像はHIKYY提供

 そのようなとがったCVOがいる会社だけに、社員もVR出社を普通のことのように受け止めているようだ。コロナ禍以前から一般的なリモートワークの割合が高かったこともあり、リモートワークそのものに対する特別感も希薄だという。

 それだけにリモートでの社内コミュニケーションは、「ありとあらゆるコミュニケーションツールをフルに活用しており、常時、複数のツールがパソコン上で動いている」(船越氏)。SNSに加え、ZoomやSlackのようなツールは当然、活用している。特筆すべきは、ゲーマーに人気のツール「Discord」を常時接続状態でつなげており、「オフィス内の雑談空間を構築している」という。

 船越氏は、業務上の報告やミーティングなどオフィシャルなコミュニケーション以外に、「雑談」を重視しているという。リアル空間で、誰かの雑談が耳に飛び込んできて「それそれ!」と話に割り込み、そこから会話が広がりアイデアが浮かぶことがある。そんな雑談空間をバーチャルでも構築している、というのだ。そのような雑談から「格上げ」されたアイデアをSlackでオフィシャルにミーティングするようなイメージだ。

VR出社は当たり前の日常になる?

 VR出社に限らず、これはリモートワークを本格導入した多くの企業が悩むところだが、リモートという目の行き届かないところで働く社員の評価・人事考課はどのように実施するのだろうか。プログラマーなどは、作成したソースコードをコミット(一種の署名)すれば、実績として記録が明確に残る。営業担当者も営業成績が指標として明示化される。難しいのは、管理系の業務やユーザーや取引先とのコミュニケーション業務を行っている職種だろう。

 船越氏は「トライ&エラーを繰り返しながら最適解を探っている最中」というが、VR出社を含めたリモートワークこそ、的確な人事考課が行えると、大いに手応えを感じているという。

 というのは、あらゆる行動がログとして保存されているからだ。メール、チャット、音声のやりとりなどが保存されているため、執務時間以外にも、どのような働き方をしていたのかなど、業務内容まで全て把握できるというのだ。「リモートのログは、リアルな行動とは異なり、ごまかしようがない」(船越氏)と笑う。

 平常な生活を奪ったコロナ禍は、忌むべきものである一方、われわれに多くの気付きをもたらす側面も持ち合わせている。働き方もその一つで、多様な働き方に目を向けざるを得ない状況を作り出した。現状、オタク感の強い「VR出社」だが、テクノロジーの進歩に伴い日常の1コマになることは間違いないだろう。

photo HIKKYが主催した仮想イベント「バーチャルマーケット」のようす=画像はHIKKY提供

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August 18, 2020 at 06:00AM
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